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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)169号 判決

東京都中央区日本橋茅場町一丁目一一番二号フジビル一六 五階

丸大証券株式会社日本橋支店内

原告

荒木武

右訴訟代理人弁護士

土屋東一

味岡良行

神谷修

東京都中央区日本橋堀留町二丁目六番九号

被告

日本橋税務署長 牧野正滿

右指定代理人

新堀敏彦

時田敏彦

須田靖

松倉文夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が昭和六三年一〇月三一日付けでした次の各処分を取り消す。

一  原告の昭和六〇年分の所得税に対する更正のうち総所得金額八七三万八七一三円及び還付金額二二七万五一〇円を越える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成四年六月二二日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

二  原告の昭和六一年分の所得税に対する更正のうち総所得金額五四五七万三九三三円及び納付すべき税額一五九〇万四八〇〇円を越える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成四年六月二二日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

三  原告の昭和六二年分の所得税に対する更正のうち総所得金額三四二一万一二二四円及び納付すべき税額四二万九二〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成四年六月二二日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)

第二事案の概要

本件は、昭和六〇年分から昭和六二年分まで(以下「本件係争年分」という。)の所得税の各申告について、神田税務署長から更正及び過少申告加算税賦課決定を受けた証券外務員である原告が、被告に対し、顧客の株式取得資金を原告名義等で証券金融機関から借り入れ、右借入金により生じた利息を負担したから、右支払利息は、原告の事業所得の計算上必要経費に算入されるべきであるとして、右更正等の一部の取消しを求める事案である。

一  本件各課税処分の経緯等(この事実については、当事者間に争いがない。)

1  原告は、証券外務員(以下「外務員」という。)として、昭和五三年一〇月一日から昭和六一年四月三〇日までは大東証券株式会社に、同年五月一日から平成元年一一月三〇日までは一成証券株式会社に所属していた。

2  原告の本件係争年分の所得税についての各申告、これに対する課税処分及び不服申立ての経緯は、別表一から三までに記載のとおりである(以下、本件係争年分の各更正及び各過少申告加算税賦課決定を総称して「本件各更正」及び「本件各賦課決定」という。)。

3  なお、原告は、平成三年三月一五日、原告の納税地の異動に関する届出書を提出し、神田税務署長から被告に事務が承継された。

二  本件各更正及び各賦課決定の適法性に関する被告の主張

1  昭和六〇年分

(一) 事業所得金額 二一三三万八〇六五円

右金額は、次の(1)の金額から(2)の金額を差し引いたものである。

(1) 総収入金額 三五〇八万六一四三円

右金額については、当事者間に争いがない。

(2) 必要経費 一三七四万八〇七八円

右金額は、アの金額にイ及びウの金額を加算した上、エからカまでの金額を差し引いたものである。

ア 申告金額

右金額は、原告が同年分の収支内訳書に記載した必要経費の額である。

イ 減価償却費 二〇万九九一六円

右金額は、原告が、昭和五五年二月四日、事務所用として取得した東京都中央区日本橋蛎殻町一丁目一一番一号中銀日本橋マンション三〇五号室(以下「本件事務所」という。)に係る減価償却費の額である(昭和六一年分及び昭和六二年分についても、同じ)。

ウ 支払利息 一〇〇万七二二二円

右金額は、原告が、本件事務所の取得のために、株式会社中央信託銀行銀座支店から借り入れた借入金に係る支払利息の額である。

エ 接待交際費 二〇〇万円

右金額は、右収支内訳書の接待交際費欄に記載された額のうち、領収書等の証ひょうがなく、事業上の経費か否かが明らかではないものである。

オ 貸倒金 一五〇〇万円

右金額は、原告が、田進に対し、昭和五九年三月一二日に貸し付けた一五〇〇万円に係る貸倒金として、右収支内訳書の貸倒金欄に記載されたが、事業との関連性、貸付けの事実関係等が確認できないものである。

カ 雑費 二万九七五〇円

右金額は、右収支内訳書の雑費欄に記載された額のうち、家事費に該当するものである。

以上のアからカまでに記載された内容の金額については、いずれも当事者間に争いがない。

(二) 配当所得金額 三五万円

右金額については、当事者間に争いがない。

(三) 不動産所得金額 △九一三三円(損失)

右金額については、当事者間に争いがない。

(四) 総所得金額 二一六七万八九三二円

右金額は、(一)から(三)までの金額の合計額である。

2  昭和六一年分

(一) 事業所得金額 八二六二万六七六〇円

右金額は、次の(1)の金額から(2)の金額を差し引いたものである。

(1) 総収入金額 一億一一四万六七七五円

右金額については、当事者間に争いがない。

(2) 必要経費 一八五二万一五円

右金額は、アの金額にイからエまでの金額を加算した上、オ及びカの金額を差し引いたものである。

ア 申告金額 八四二六万八三四九円

右金額は、原告が同年分の収支内訳書に記載した必要経費の額である。

イ 給料賃金 一六五万円

右金額は、原告の事務所の事務員に対する給与の額である。

ウ 減価償却費 二〇万九九一六円

エ 支払手数料 六一三万円

右金額は、原告が、顧客である遠藤清吉(以下「遠藤」という。)に対し、バックリベート(特定の顧客に対し、当該顧客の株式売買高に応じて証券会社から受け取る報酬の一割を返還するもの)として返還した額である。

オ 雑損失 四二九二万一一七六円

右金額は、原告が和泉四郎に支払った損害金三〇〇〇万円及びシアトル・ファースト・ナショナル・バンクに支払った和解金一二九二万一一七六円の合計金額であり、いずれも右収支内訳書の雑損失欄に記載されたが、事業所得に係る必要経費とは認められないものである。

カ 支払利息 三〇八一万七〇七四円

右金額は、右収支内訳書の支払利息欄に記載された三一七三万四三五四円のうち、本件事務所の取得のための借入金に係る支払利息九一万七二八〇円以外のものである。

以上の金額のうち、アからオまでに記載された内容の金額については、当事者間に争いがない。

(二) 不動産所得金額 四七万八二三五円

右金額については、当事者間に争いがない。

(三) 総所得金額 八三一〇万四九九五円

右金額は、(一)及び(二)の金額の合計額である。

3  昭和六二年分

(一) 事業所得金額 七三九二万四二九八円

右金額は、次の(1)の金額から(2)の金額を差し引いたものである。

(1) 総収入金額 一億二六二八万一四〇九円

右金額については、当事者間に争いがない。

(2) 必要経費 五二三五万七一一一円

右金額は、アの金額にイからエまでの金額を加算した上、オからキまでの金額を差し引いたものである。

ア 申告金額 九二〇七万一八五円

右金額は、原告が同年分の収支内訳書に記載した必要経費の額である。

イ 給料賃金 二四〇万円

右金額は、原告の事務所の事務員に対する給与の額である。

ウ 減価償却費 二〇万九九一六円

エ 支払手数料 一九七二万二三六〇円

右金額は、原告の顧客である遠藤、水橋良一及び新場洋一に対するバックリベートである。

オ 接待交際費 一五九万三七四〇円

右金額は、右収支内訳書の接待交際費欄に記載された額のうち、原告及び原告の妻の海外旅行費用として、家事費に該当するものである。

カ 雑費 六六万七〇〇〇円

右金額は、右収支内訳書の雑費欄に記載された額のうち、前記2(一)(2)オ記載の損害金及び和解金の支払の契機となった訴訟に係る弁護士費用であり、必要経費とは認められないものである。

キ 支払利息 五九七八万四六一〇円

右金額は、右収支内訳書の支払利息欄に記載された六八四四万九三八六円のうち、本件事務所の取得のための借入金に係る支払利息七二万七八一円及び日野高治に対する貸付金に相当する借入金に係る利息七九四万三九九五円以外のものである。

以上の金額のうち、アからカまでに記載された内容の金額については、当事者間に争いがない。

(二) 不動産所得金額 三三万三〇七一円

右金額については、当事者間に争いがない。

(三) 雑所得金額 三万三〇〇〇円

右金額については、当事者間に争いがない。

(四) 総所得金額 七四二九万三六九円

右金額は、(一)から(三)までの金額の合計額である。

4  以上のとおり、本件各更正における原告の総所得金額は、いずれも右総所得金額と同額であるから、本件各更正はいずれも適法である。

また、被告は、国税通則法六五条一項及び二項(ただし、昭和六〇年分及び昭和六一年分については、昭和六二年法律第九六号による改正前、昭和六二年分については、右改正後のもの)に基づき、本件各更正により、原告が納付すべきこととなった所得税額(同法一一八条三項により、一万円未満の端数を切り捨てた金額)を基礎として計算した過少申告加算税をそれぞれ賦課決定したものであるから、本件各賦課決定はいずれも適法である。

三  必要経費に係る原告の主張

原告は、証券金融機関から、顧客である張瑞泰(以下「張」という。)及び遠藤(以下、張及び遠藤を合わせて「張ら」という。)の株式取得資金を原告名義等により借り入れ、右借入金によって生じた利息を負担したから、被告が主張する支払利息のほかに、右支払利息も、必要経費に算入すべきであると主張する。

原告が主張する支払利息の金額(以下「本件支払利息」という。)は、次のとおりである。

1  昭和六〇年分 張に係る利子割引料一二九四万二一九円

2  昭和六一年分 張に係る利子割引料二〇四九万三八八九円

遠藤に係る利子割引料八〇三万七一七三円

合計二八五三万一〇六二円

3  昭和六二年分 張に係る利子割引料一〇五六万六四九七円

遠藤に係る利子割引料八二二四万三五二二円

合計九二八一万二〇円(なお、右合計金額は、正しくは九二八一万一九円である。)

四  争点

本件の争点は、本件支払利息が、原告の事業所得の計算上、必要経費に算入されるべきか否かであり、これに関する当事者双方の主張の要旨は次のとおりである。

(一)  原告の主張

外務員が、その勧誘の実を上げて自己の取扱いに係る株式取引の受取手数料収入を増やすために、顧客に対し、株式取得資金を貸し付け又は株式を貸与して融資の便を図ることは、通常行われていることである。

本件支払利息は、原告において、張らの株式取得資金を調達するために、原告名義又はデイリー企画、大内利雄若しくは荒木八重子名義の借名名義を用いて、証券金融機関から資金を借り入れ、これを張らに貸し付けた際、右借入金を元本として発生し、原告が負担したものである。

原告が、資金の借入れに際し、原告名義又は借名名義を用いたのは、張らの名義では証券金融機関に対する信用がなかったこと、原告が担保として提供した株式が張らに返還されたり処分されたりするのを防ぐこと等のためである。

また、張らは、株式取引に自分の名前を出すことを望まなかったこと、原告にとっても、張らによる株式の持ち逃げ等を防止する必要があったことなどから、原告は、証券会社における株式取引口座として、仮名又は借名で開設したいわゆる混合口座を使用し、一つの口座で複数の者の取引を行っていたものである。

このように、本件支払利息は、原告が受取手数料収入を得るために直接に要した費用であるから、必要経費に算入されるべきである。

(二)  被告の主張

(1) 日本証券業協会の定めた「証券従業員に関する規則―公正慣習規則第八号」(以下「規則」という。)によれば、外務員が顧客に対して借入金の利息を負担することは、顧客に対する特別の利益供与行為として禁止されており、通常の外務員の外務行為を逸脱した例外的な行為である。しかも、外務員が、顧客に対し、株式取得資金調達のために証券金融機関等を紹介する場合であっても、当該顧客名義で借り入れ、当該顧客が利息を負担するのが一般的である。

そうすると、原告が、証券金融機関等から、原告名義等により顧客の株式取得資金を借り入れ、右借入金に係る利息を負担するということは、容易には想定し難い。しかも、本件において、他人名義の借入金の実質的借主が原告であること及び原告が本件支払利息を負担したことを示す帳簿書類等の書証はない。

したがって、原告が、原告名義又は借名名義で張らの株式取得資金を借り入れ、その利息を負担したということを認めることはできない。

(2) 仮に、原告が、証券金融機関等から資金を借り入れ、右借入金に係る利息を支払ったことが認められるとしても、本件支払利息が必要経費に算入されるには、収入金額に対応するものでなければならないから、所得の処分たる家事費と明確に識別され、どの所得区分に対応する必要経費に当たるかが明らかにされなければならない。

ところが、張らの氏名は、証券金融機関等との取引においても、証券会社との株式取引においても、一切出ておらず、原告が借り入れた資金が張らの株式取得のために用いられたことを裏付ける書証は存在しない。しかも、原告には、手張り行為、すなわち、原告が自ら資金調達して自らの株式取引をする行為をしたのではないかという疑念すらある。

したがって、本件支払利息は、収入金額に対応するものとは認められないから、必要経費に算入することはできない。

第三争点に対する判断

一  所得税法三七条一項は、その年分の事業所得の計算上必要経費に算入すべき金額は、右所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。右規定に照らせば、業務を営む者が支出した費用のうち、必要経費に算入されるのは、それが事業活動と直接の関連を有し、当該業務の遂行上必要なものに限られるべきであり、それ以外の費用は、家事費(同法四五条一項)に該当し、必要経費には算入されないというべきである。

ところで、原告は、自己の取扱いに係る株式取引の受取手数料収入を増やすために、証券金融機関から、原告名義又は借名名義で張らの株式取得資金を借り入れ、右借入金に係る利息を負担したから、本件支払利息は必要経費に算入されるべきであると主張する。そうすると、右受取手数料収入と本件支払利息との事業関連性の有無が問題となる本件においては、原告が本件支払利息を必要経費に算入することができるとするためには、原告が証券金融機関から資金を借り入れたとの事実に加えて、原告が張らに対し、右借入れに係る金員を貸し付けたこと、原告と張らとの間において、原告が右借入金の利息を負担する旨の約定が存したこと及び張らが、外務員である原告を通じて株式を取得し、右借入金をその資金に充てたことについて、原告が、反証として、これを積極的に主張、立証する必要があるというべきである。もとより、具体的な支出が必要経費に該当するか否かが争われている場合には、所得の存在について被告に主張、立証責任がある以上、原則として、被告において、収入のみならず経費についても、被告の主張額以上に経費が存在しないことを立証すべき責任があると解すべきではあるが、更正時には存在しない、あるいは提出されなかった資料等に基づき、原告が当該支出が必要経費に該当すると主張するときは、当該証拠との距離からみても、原告において経費該当性を合理的に推認させるに足りる程度の具体的な立証を行わない限り、当該支出が経費に該当しないとの事実上の推定が働くものというべきである。右のように、原告において積極的な反証を要するとすることは、顧客が、証券金融機関から株式取得資金の融資を受ける場合であっても、当該顧客名義で資金を借り入れ、当該顧客が利息を負担するのが通常の形態であると考えられるのみならず、前記規則によれば、外務員が、有価証券の売買その他の取引等について、顧客に対し特別の利益供与行為をしたり、顧客と金銭、有価証券等の貸借を行うことが禁止されている(同規則九条三項)ことに照らせば、原告の右借入れ及び本件支払利息の支払が、直ちに事業に関連するもの、すなわち、受取手数料収入を得るためのものと判断すべき経験則は存在しないと考えられることからも明らかである。

そこで、以下、本件証拠に照らし、右のような事実が認められるかどうかについて検討する。

二  証拠(原告本人尋問の結果、甲二五号証及び末尾に掲記の各書証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、所属証券会社から、自己の取扱いに係る株式取引の受取手数料の約四〇パーセントを報酬として受け取っていた。

2  株式取引の顧客が証券金融機関から株式取得資金の融資を受ける場合、証券金融機関は、株券を担保として、その借入れ前日の時価評価額の約八〇パーセントを貸し付ける。買付株券の時価評価額満額の借入れを望む顧客は、右株券の時価評価額の二割については、頭金として、現金を差し入れなければならない。

原告は、顧客の株式取得資金を調達するために、決済日(通常、買付約定日から四日目の営業日)に証券会社から顧客の買付株券を出庫し、それを証券金融機関に担保として差し入れて資金を借り入れ、即日代金決済をするという方法をとることもあった。

3  原告は、証券金融機関である東京証券金融株式会社、大栄ファイナンス株式会社、株式会社平田商会、大松物産株式会社、株式会社都市ファイナンス(後に、アイフル株式会社に吸収合併されたもの)、東洋ファクタリング及び株式会社興亜物産から、原告名義で、株式を担保として株式取得資金の融資を申し込み、右融資を受けた。その後、右借入金及び利息は、一部返済された。(甲六号証の一ないし二三、同号証の三一ないし一二一、同号証の一二三、甲八号証の三ないし七、甲九号証の三ないし五、甲一〇号証の三及び四、甲一一号証の三ないし六、甲一二号証の三ないし五)

また、東京証券金融株式会社及び大松物産株式会社には、大内利雄を、株式会社都市ファイナンスには、大内利雄、荒木八重子及び株式会社デイリー企画をそれぞれ名義人とする借入金が存在する。右借入金及び利息は、一部返済された。(甲六号証の二四ないし三〇、同号証の一二二、同号証の一二四ないし一五四、甲一三号証の三ないし七、甲一四号証の三ないし一〇、甲一五号証の三及び四)

4  原告は、証券会社における株式取引口座として、橋本誠一、青木文雄、岡野和男、清水豊治、金子俊明及び栗原由紀夫名義の借名又は仮名の口座を利用していた。(甲七号証の一ないし一五四、甲二四号証の一ないし六)

以上の認定事実によれば、原告が証券金融機関から原告名義で資金を借り入れたことは認められるものの、原告がデイリー企画等の他人名義の借入金についての実質的な借主であるか否かは必ずしも明らかではない。

三  その点はさておき、次に、原告から張らへの右借入金の貸付けの有無、原告の右借入金についての利息負担の約定の有無及び張らの原告を通じての株式取得と右借入金の資金充当の有無について検討する。

この点に関し、原告本人尋問の結果中及び原告の陳述書(甲二五号証)中には、原告は、証券金融機関から資金を借り入れ、これを張らに貸し付けるとともに、証券金融機関に対する頭金、右借入金に係る利息及び証券会社に対する保証金を負担した、また、張らは、貸付けを受けた右借入金を資金として、原告を通じて株式を取得した旨の供述部分及び記載部分があり、原告は、その証左として、甲二ないし四号証、甲一六ないし二一号証、甲二四号証の一ないし六等の書証を提出する。

しかしながら、まず、原告が証券金融機関からの借入金を張らに貸し付けたとする点については、本件証拠中には、その貸付けの日時、貸付金額、返済方法等を裏付けるべき帳簿書類等は一切見当たらず(この点について、原告は、右貸付けの日時等について、具体的な主張すらしない。)、また、右借入金についての利息を原告が負担するとの約定があったとの点についても、これを認めるに足りる客観的な証拠は見当たらない。

次に、甲二ないし四号証は、原告も自認するごとく、本件審査請求時点で原告の代理人である税理士が説明の便宜のため作成した資料であるにすぎない上、右書証中には、顧客名、証券金融会社名、借入名義、借入金額、担保に供した株式銘柄、数量、株式取引日時、取引口座名、出庫日、借入金返済状況等が記載されてはいるものの、これらの記載によっても、原告が張らに借入金を貸し付けたこと、買い付けられた株式は張らが取得したものであることが裏付けられるとは到底いえないといわざるを得ない。なお、同書証中に記載されている原告が証券金融機関に担保として提供したとされる株式の中には、現実に担保に提供されている株式(甲一〇ないし一五号証)と異なっているものが多数見受けられる。

また、甲一六ないし二一号証及び甲二四号証の一ないし六についてみても、これらは、せいぜい原告と遠藤との間に一般的な取引関係があることを推認させるものにとどまり、原告の張らに対する貸付けの日時、貸付金額等について、具体的に明らかにするに足りるものということはできない。

かえって、甲二三号証の三及び四によれば、証券金融機関との取引において、張らの名義が一切出てこないばかりか、証券会社との取引においても、一成証券に張の顧客力ードが作成されているほかには、張らの株式取引口座、印鑑登録等はないとの事実が認められる。

そうすると、前記原告本人尋問中の供述部分及び原告の陳述書(甲二五号証)中の記載部分は、これを裏付ける客観的な証拠がないことになるから、右供述部分及び記載部分をもって、原告の受取手数料収入と本件支払利息との事業関連性を肯認すべき証拠に供することはできないというほかはなく、その他、右事業関連性をうかがわせるに足りる事実を裏付ける客観的な証拠は見当たらない。

四  以上によれば、本件支払利息は、原告の業務に直接の関連性を有しないものというべきであるから、原告の事業所得の計算上、これを必要経費に算入することはできないこととなる。

そうすると、前記第二、二記載の当事者間に争いのない事実に基づいて計算すると、原告の本件係争年分の総所得金額は、被告の主張どおり、昭和六〇年分が二一六七万八九三二円、昭和六一年分が八三一〇万四九九五円、昭和六二年分が七四二九万三六九円となる。

したがって、本件各更正及びこれに伴う本件各賦課決定には、違法がない。

五  よって、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)

別表一

昭和六〇年分

別表二

昭和六一年分

別表三

昭和六二年分

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